ケイスケヨシダの2027年春夏コレクション、西武渋谷店で見せた新たな色気

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ケイスケヨシダの2027年春夏コレクション、西武渋谷店で見せた新たな色気

東京のブランド、ケイスケヨシダが2027年春夏に発表したコレクションは、デザイナーの吉田圭佑が「ファッションのふくよかさ」を実践に移した最初の一歩でした。会場に選んだのは、2026年9月30日で営業を終える西武渋谷店です。前シーズンで掲げた「失われつつあるファッションのふくよかさを、どう現代に浸透させるか」というテーマを、吉田自身の原体験とダナ・キャランというデザイナーを参照点にしながら、具体的な服の形へと落とし込みました。エモーションや強固な女性像といったこれまでのケイスケヨシダを特徴づけてきた要素を一度脇に置き、服そのものが持つブランドらしさの輪郭を確かめる。そんな作業を通じて、より日常的で地に足のついたワードローブへの移行を印象づけるシーズンになりました。

ケイスケヨシダの2027年春夏コレクション、西武渋谷店で見せた新たな色気
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ケイスケヨシダの2027年春夏コレクションは西武渋谷店で発表された

ケイスケヨシダは2027年春夏コレクションのプレゼンテーションを、2026年9月末に営業を終了する西武渋谷店で実施しました。吉田は前シーズンのプレゼンテーションで「やっとケイスケヨシダがこの先数年かけて向き合うべき命題に出会えた」と語っており、今回のコレクションはその言葉を実践に移す最初の具体的な一歩として位置づけられます。

前回のシーズンで掲げられたテーマは、「失われつつあるファッションのふくよかさを、どう現代に浸透させるか」というものでした。今季はこのテーマを抽象的なスローガンのままにとどめず、吉田自身が実際に体験してきたふくよかさの具体例を直接参照しながら、ブランドのスタイルへと落とし込む方法を模索しています。結果として立ち上がってきたのは、エモーションや強固な女性像といったこれまでケイスケヨシダを特徴づけてきた要素をいったん脇に置いてもなお立ち現れる、服そのものが持つケイスケヨシダらしさの輪郭でした。

吉田圭佑は立教大学卒業後、2015年にブランドを設立

吉田圭佑は1991年、東京都北区に生まれました。立教大学文学部を卒業したのち、ファッションの専門教育機関であるここのがっこう(coconogacco)とESMODE JAPONの「A.M.I」でデザインを学びました。2015年に自身のブランド「KEISUKEYOSHIDA」を設立し、同年秋冬シーズンに「東京ニューエイジ」でデビューコレクションを発表しています。2016年からは東京コレクションに参加し、ユニセックスブランドとして「明るいのか暗いのかわからない空気と、そこにいる彼らの感情と装い」をコンセプトに服作りを続けてきました。

その評価は国内にとどまりません。2022年には国立新美術館で開催された「FASHION IN JAPAN 1945-2020」展にコレクションの一部が展示され、2023年にはFASHION ASIA HONGKONGが選出する「10 Asian Designers To Watch」にも名を連ねました。設立から10年余りを経て、東京のファッションシーンを代表するデザイナーの一人として認識されるようになった吉田が、自身のブランドがこの先数年かけて向き合うべき命題として掲げたのが、ファッションのふくよかさというテーマでした。

“ファッションのふくよかさ”の原点は池袋・東武百貨店にある

吉田の言うファッションのふくよかさとは、彼が学生時代を過ごした東京というまちで、アメリカンカジュアルの古着やユーロヴィンテージ、新進気鋭のデザイナーズブランド、ハイファッションといった、本来は文脈も価格帯も異なる多様な服が、同じエリアに垣根なく混在していた状況を指します。その環境の中では、あらゆる服がフラットにファッションであり服であるとして、分け隔てなく愛することができました。そうした感覚こそが、吉田にとってのふくよかさの実感です。

しかし、デジタル化やAIの発達によって過剰な効率化が進む現代では、ファッションはより合理的で整理されたものになりつつあります。加えて近年は、ラグジュアリーブランドの価格高騰が続いており、ハイファッションやモードは再び一部の人々だけがアクセスできる特権的なものへと回帰しつつあります。多様な服が等しく共存していたかつてのふくよかさは、今失われようとしています。この状況に対する危機感が、吉田が今このテーマに向き合う出発点です。

この危機感を出発点に、吉田は今季、自身が過去に影響を受けてきたデザイナーたちのクリエイションを改めて振り返るリサーチを重ねました。その中で特に着目したのが、1980年代のアメリカファッションをけん引したデザイナーたちの仕事であり、なかでも強く惹きつけられたのがダナ・キャラン(Donna Karan)でした。

吉田がダナ・キャランのクリエイションに惹かれた理由について、本人は「自分のファッションの原体験である、子ども時代に通学路だった池袋の東武百貨店で体験した化粧品の匂いや広告写真、百貨店が持つエレガンスに近しいものを感じたから」と語っています。ダナ・キャランのセクシーでありながらヘルシーで、力強さとナチュラルさが共存する自由闊達なムードこそが、吉田にとっての原体験と地続きにあるものとして立ち現れたということになります。

ダナ・キャランは1980年代にモードを大衆化した

ダナ・キャランは1948年生まれのアメリカのファッションデザイナーです。アン・クラインのアトリエで働いたのち、1974年、アン・クラインの死去に伴ってヘッドデザイナーに抜擢されました。その後1985年、夫のスティーヴン・ワイスとともに、タキヒヨーの資本を得て「ダナ・キャラン・ニューヨーク(Donna Karan New York)」を設立して独立しています。同年、デザイナー・オブ・ザ・イヤーを受賞しました。

「自分と家族のための服」をコンセプトに掲げたダナ・キャラン・ニューヨークは、個性を表現したいと願うキャリアウーマンをターゲットに据え、男女の融合を目指しながらも、シャープでセクシーかつ洗練されたスタイルを提案しました。1988年には、ブランド名の略称にちなんだセカンドライン「DKNY」を創設。1990年には二度目のデザイナー・オブ・ザ・イヤーを受賞し、同年に「DKNY JEANS」、翌1991年に「DONNA KARAN MEN」、1992年には「DKNY MEN」と、ラインを次々に拡張していきました。

1980年代のダナ・キャランは、女性の社会進出が急速に進んだ時代の中で、従来の女性服とも男性の仕事着とも異なる、働く女性たちのアクティブな生活やマインド、身体そのものに寄り添う新しいワードローブを提案した人物でした。それは、当時の多くの女性たちに新しい選択肢と力を与えるものであり、モードを一部の特権階級のものから、より広い層の日常へと開いていく試みでもありました。吉田がダナ・キャランに惹かれた最大の理由は、この「モードを大衆化したデザイナー」という側面にあります。

ラグジュアリーブランドの価格高騰によって、モードが再び限られた人々だけのものになりつつある現代において、ラグジュアリーではない立場からモードを提案し続けている吉田にとって、ダナ・キャランが体現した「モードをより多くの人の日常へと開く」という姿勢は、自身がこれから向き合うべき命題と強く共鳴するものでした。

会場の西武渋谷店は2026年9月30日に営業を終える

今回のプレゼンテーション会場に選ばれた西武渋谷店もまた、吉田自身の原体験としてのエレガンスの名残をとどめる場所でした。西武渋谷店は1968年に開業し、1973年にオープンした渋谷パルコとともに、1970年代から1980年代にかけての東京のファッション文化をけん引し、渋谷イコール若者の街というイメージを形成する一翼を担ってきた歴史ある百貨店です。

しかし近年は近隣商業施設との競争激化により収益力が低下しました。加えて渋谷の再開発をめぐって店舗の土地や建物を所有する地権者との賃貸借契約の合意にも至らなかったことから、2026年9月30日をもって営業を終了することが決まっています。閉店するのはA館とB館で、雑貨店の入るロフト館と無印良品が入るモヴィーダ館は営業を続ける見通しですが、西武渋谷店という看板自体は下ろされることになります。

1970年代から80年代にかけての東京のファッション文化を醸成してきた象徴的な場所が、今失われようとしています。この状況は、吉田が抱くファッションのふくよかさが失われつつあるという危機感と重なり合うものです。だからこそ、閉店を目前に控えた西武渋谷店という場所そのものが、今回のコレクションの背景として選ばれました。

今季のシルエットは緊張感からヘルシーな色気へと転換した

ケイスケヨシダは、2023年秋冬シーズンから2026年春夏シーズンまで、厳格さや緊張感のあるムードを軸にコレクションを展開してきました。今季の2027年春夏コレクションは、そうしたこれまでの方向性から一転し、ゆったりとしたシルエットを土台に据えています。そのゆとりあるシルエットに、ドレーピングやブラウジング、タックインといった手法でシェイプを加え、ボディラインを浮かび上がらせることで、ヘルシーさの中にエフォートレスな色気を感じさせるスタイルを構築している点が、今シーズンの大きな特徴です。

具体的なアイテムとしては、変形したドルマンスリーブ調のパワーショルダーと、立ち襟によるシェイプを組み合わせたコートやシャツが挙げられます。また、ブラウジングによって独特の表情やムードを生み出したデニムジャケットやトレンチコートなども登場しており、これらのアイテムからは、ダナ・キャランのコレクションが持っていたスタイルやムードからの影響がはっきりと感じ取れる仕上がりになっています。

V字のラインが全アイテムを貫く意匠になった

ウエストのシェイプと並んで、今季のコレクションを象徴するもう一つの要素がV字のシルエットです。吉田自身が現代的な美しさを感じるというこのV字のラインは、コレクションのさまざまなアイテムに繰り返し現れています。

たとえばチェスターコートやテーラードジャケットは、着用者がハンドウォームポケットに手を入れるという所作そのものによって、自然にV字のシェイプが生まれるようにデザインされています。ステンカラーコートやシャツについては、アームホールの内側に肩パッドを仕込むことで、肩から足元に向かって広がる逆三角形のV字シルエットを作り出しています。さらに、シャツの襟開きや深いVネックラインのニットにも同様の意匠が用いられており、コレクション全体を通してV字のラインが強調される構成になっています。

このV字のシルエットは、単なる意匠上の統一感にとどまらず、ゆったりとしたシルエットの中にメリハリを生み出し、ヘルシーでエフォートレスな色気を際立たせる機能的な役割も担っています。ドレーピングやブラウジング、タックインによって加えられた柔らかなシェイプと、V字という明快なラインが組み合わさることで、今季のコレクション全体に一貫した審美性がもたらされています。

日常着とヴィンテージ古着に”品”を宿らせる手法が中心軸

今回のコレクションを構成するもう一つの軸は、吉田自身の日常的なワードローブや、彼が愛着を持つヴィンテージ古着に、シェイプや変化を加えることで品をまとわせたアイテム群です。これは、冒頭で語られたファッションのふくよかさ、つまりアメカジ古着やユーロヴィンテージ、デザイナーズ、ハイファッションが等しく共存していた感覚を、具体的な手法として服作りに落とし込んだ部分だと言えます。

吉田が特に好きだというファイヤーマンジャケットは、ケープのようなシルエットへと仕立て直され、ケイスケヨシダらしいシャツやタイトスカートと組み合わされています。フレンチカバーオールは、背中をメタルのジュエリーで留めることによってウエストコンシャスなシルエットを形成しました。

メンズウェア由来のアイテムもエレガントに再構築された

サファリジャケットやレーサージャケット、ウインドブレーカー、コマンドセーターといった、本来はメンズウェアに分類されるアイテムについても、ウエスト部分をシェイプし、ケイスケヨシダらしいドレープスカートや光沢のある素材のスカートと合わせることで、エレガントな着こなしへとまとめ上げています。

古着やミリタリー由来のアイテム、メンズウェアといった、本来のコンテクストからは距離のあるアイテムを、シェイプやディテールの工夫によってブランドの文脈に引き寄せ、品を宿らせていく。この手つきこそが、今季のケイスケヨシダが体現したふくよかさの実践であり、ダナ・キャランが体現したモードの大衆化という姿勢とも呼応する部分です。

今季吉田が取り入れた、ダナ・キャランに由来するセクシーでありながらヘルシーで闊達なムードは、一見するとこれまでのケイスケヨシダの方向性とは対照的に映ります。ただし、その変化は単なる路線転換ではありません。吉田がダナ・キャランに惹かれた最大の理由がモードを大衆化したデザイナーという点にあることを踏まえれば、今季のスタイルの変化は、これまでの淑女的なムードを否定するものではなく、その奥にある服そのものが持つケイスケヨシダらしさを、より開かれた形で提示し直す試みだと理解できます。エモーションや強固な女性像といった、これまでブランドを特徴づけてきた要素を一度脇に置いてもなお立ち現れる輪郭を確かめる作業であり、そのために選ばれた補助線が、1980年代のアメリカでモードを日常へと開いたダナ・キャランでした。

1980年代、女性の社会進出が進む中でダナ・キャランが新しいワードローブを提案し、多くの女性たちに新しい選択肢を与えたように、現代においてラグジュアリーブランドの価格高騰でモードが再び特権的なものになりつつある状況の中、ラグジュアリーではない立場から服を提案し続ける吉田圭佑もまた、モードをより多くの人の日常へと開くという同じ姿勢を、自身の言葉と手法で引き継ごうとしています。

服飾史家の中野香織が著書「エレガンス入門」で論じた定義を重ねると、吉田の姿勢がより見えやすくなります。中野は、エレガンスとは自分と他者、個人と社会、自由と責任、欲望と節度といった複雑に絡み合う関係をできる限り穏やかに、誠実に調整する技法であり、自らの意思で選びとることの積み重ねによって形づくられる態度だと論じました。吉田が掲げるファッションのふくよかさとは、多様な時代や価値観、文脈を持つ衣服をフラットに受け止め、それらを現代の感覚へと調整しながら、自らのスタイルとして選び取っていくことでもあります。今回、ヴィンテージやワークウェア、1980年代のアメリカンモード、そして自身の日常着を横断しながら、それらすべてに品をまとわせようとした試みは、この営みの延長線上にありました。

これまでケイスケヨシダは、厳格さと繊細さを併せ持つ淑女のような女性像を通して、そのエレガンスを一貫して描いてきました。しかし前シーズン、その人物像はすでにブランドのアティチュードとして服に宿るようになったと考え、コレクションの中心から一度外すという選択をしています。その変化の途上にあったからこそ、ブランドらしさの輪郭が見えづらくなった部分もありました。同じ命題に向き合い続けた今季、そのブランドらしさは失われたのではなく、宿る場所が変わったことが明確になっています。強固な人物像や情動を削ぎ落とした先に残ったのは、服そのものの構造や佇まい、着る人の身体との関係性の中で静かに立ち現れる、ケイスケヨシダらしい品でした。

吉田圭佑が語った今季のクリエイション

吉田は今季のクリエイションについて、自らの現在地をこう語っています。「自分にとって身近なもの、ルーツのあるもの、今まで積み上げてきたものを混ぜ合わせながらブランドを広げていきたい。ブランドを始めたころは冴えない自分というテーマから出発したが、僕自身は、その冴えなさを乗り越えてファッションを好きになってからの時間のほうが、もはや長くなっている。その中で育まれたファッションへの愛こそが、今自分が大切にしているものとファッションとの結びつきだと思う。ただ過去のものを作るだけでなく、現代とミクスチャーしながら時代と接続していくことが一番大事だと考えている」。

また、吉田は今回のコレクションについて次のようにも話しています。「これまでは1回のコレクションで完結させようとするあまり風呂敷を広げすぎていたが、半年かけて一つのテーマに集中することでクオリティの積み上がりを感じている。今後もさまざまな時代から影響を受けたものを取り入れながら、ブランドとしての表現の言語やバリエーションを増やし、ケイスケヨシダを形作っていきたい」。

一つのコレクションで全てを語り尽くそうとするのではなく、半年、あるいは数シーズンという時間軸の中で一つのテーマにじっくりと向き合う。この姿勢の変化そのものが、今季のケイスケヨシダを形づくる土台になっています。エモーショナルさと強固な女性像を一度手放し、現在の吉田の等身大で地に足の着いた感覚やまなざしをもとに、多様な時代や背景の服とじっくり向き合いながら作られたケイスケヨシダの新たなワードローブ。自然体で肩の力が抜けつつも確かな品と豊かな奥行きを感じさせる服からは、現実の女性たちのリアルな日常や身体へとより開かれたものにしようとする意志がうかがえます。

直近3シーズンの歩みが”ふくよかさ”というテーマへ収束した

今季の2027年春夏コレクションを理解するうえでは、ここ数シーズンのケイスケヨシダがどのような道のりをたどってきたかを押さえておく必要があります。3シーズン分の発表内容を整理すると、次のようになります。

シーズン発表日会場テーマ・特徴
2026年春夏2025年7月24日東京・六本木ヒルズ エストネーション「Relax and Relax…」。タンポポのモチーフ、トム・トッセンによる刺繍アイテムなど実験的なアイテムが並んだ
2026-27年秋冬2026年2月16日東京・神宮前静的な空間演出で服そのものと向き合う姿勢を明確化。約3000本のピンクの花を敷き詰めた会場で、垂直方向のシルエットを提示
2027年春夏東京・西武渋谷店ダナ・キャランを補助線に、ヘルシーな色気とV字シルエットを軸に構築

前々シーズンにあたる2026年春夏コレクションは、2025年7月24日、東京・六本木ヒルズのエストネーションにて発表されました。テーマは「Relax and Relax…」。緊張感や息苦しさとともに都市を生きる女性たちが、強く生きる姿の奥に見せる、ふとした柔らかさや生々しさに焦点を当てたコレクションでした。制作過程で偶然生まれたというタンポポのモチーフ(ピンをイメージしたアクセサリーが、意図せずタンポポのような形になったもの)が象徴的に取り入れられたほか、RAF SIMONSのグラフィックデザインを手がけたトム・トッセンによる刺繍アイテム、ウエストからポケットがめくれ上がるデニム、タイトなスカート、見返し部分をゆがませて流れるようなディテールを生んだショートトレンチコートなど、実験的なアイテムが並びました。

続く2026-27年秋冬コレクションは、2026年2月16日、東京・神宮前で発表されました。このシーズンで吉田は、ランウェイ形式ではなく静的な空間演出を選び、内面のエモーションよりも服そのものと向き合う姿勢を明確にしています。会場には金網を通して床から真っ直ぐ立ち上がる約3000本のピンクの花が敷き詰められ、トルソーが点在することで、服の輪郭がより際立って浮かび上がる空間が作られました。コレクションは、襟をスカーフのように長く伸ばしたネックラインによって縦に細長いシルエットを描き、さりげないエッジィさを加えたものでした。垂直方向のバランスと構築的なフォルムに、エレガンスと気品を組み合わせ、デニムとテーラリングを掛け合わせたアイテムや、上品に洗練されたミリタリー由来のスタイルを通じて、静かな品格をたたえた大人の佇まいを表現しています。一部のコートには、上質な日本製生地として知られる備州織(びしゅうおり)も用いられました。

こうして振り返ると、服そのものと向き合うという姿勢は2026-27年秋冬シーズンからすでに芽生えていたことがわかります。エモーションよりも服の輪郭そのものを見つめ直す試みが、2027年春夏コレクションにおいて服そのものが持つケイスケヨシダらしさという言葉でより明確に言語化され、そこにダナ・キャランという新たな補助線が加わることで、今回のコレクションが形作られました。

2026年4月17日に直営店「KEISUKEYOSHIDA Tokyo」がオープンした

こうした一連の流れを語るうえで欠かせないのが、2026年4月17日にオープンしたKEISUKEYOSHIDA初の直営店「KEISUKEYOSHIDA Tokyo」の存在です。店舗は、吉田が学生時代に足繁く通い、ブランドのクリエイションに影響を与えた服の数々に出会った原宿駅から徒歩約10分の神宮前エリアに構えられました。VORT神宮前参道の地下1階に位置するこの店舗は、アイボリーのカーテンを背景に、ブランドを象徴するブラックのトレンチコートをヴィンテージのラックにかけて見せるなど、洗練されながらも特別感のある空間になっています。内部はカーテンで仕切られ、商品展開に応じてレイアウトを変えられる構造になっており、オープン時にはブランド設立10周年と2026-27年秋冬コレクションを軸にした空間構成が組まれました。

この直営店のコンセプトについて吉田は、「ブランドを愛してくれる人たちとコミュニケーションを取れる場所」であるとし、その意義はコレクションそのものと同じくらい重要だと語っています。掲げられたのはファッションのふくよかさを次世代へ届けるという言葉であり、これは2026年春夏、2026-27年秋冬、そして今回の2027年春夏へと続いてきた一連のテーマそのものです。2015年の設立から10年という節目に、コレクションという一過性の発表の場だけでなく、直営店という恒常的な場所を通じてふくよかさを伝えていこうとする姿勢は、吉田が今後数年をかけて向き合うとしていた命題が、単なる一シーズンの流行にとどまらない、ブランドの根幹に関わる長期的なビジョンであることを裏づけています。

ケイスケヨシダの27年春夏コレクションについてよくある疑問

今回のコレクションについて、発表内容から見えてくる疑問点を整理しておきます。まず、なぜ会場に西武渋谷店を選んだのかという点については、1970年代から80年代の東京のファッション文化を象徴してきたこの百貨店が、2026年9月30日に営業を終えることと深く関係しています。閉店を目前に控えた場所を舞台に選ぶことで、失われつつあるファッションのふくよかさというテーマと、場所そのものの喪失を重ね合わせる意図があったと考えられます。

なぜダナ・キャランを参照したのかという疑問には、吉田自身の子ども時代の原体験、池袋の東武百貨店で感じたエレガンスの記憶が答えになります。ダナ・キャランのセクシーかつヘルシーなムードが、その記憶と地続きにあるものとして立ち現れたことが、今季のスタイル選択の出発点でした。

今季のスタイルはこれまでと何が違うのかという点については、2023年秋冬から2026年春夏まで続いた厳格さや緊張感のあるムードから一転し、ゆったりとしたシルエットにドレーピングやブラウジング、タックインでシェイプを加える、ヘルシーな色気へと軸足を移したことが最大の違いです。ウエストシェイプとV字のシルエットという明快な意匠が、その変化を支えています。

ケイスケヨシダは”ふくよかさ”を次世代へ引き継ぐ

ケイスケヨシダの2027年春夏コレクションは、前シーズンで掲げられた「失われつつあるファッションのふくよかさを、どう現代に浸透させるか」というテーマを、吉田圭佑自身の原体験、池袋・東武百貨店の記憶、そして1980年代のダナ・キャランへの憧憬を直接的な参照点としながら、具体的なスタイルへと落とし込んだシーズンでした。厳格さや緊張感を軸としてきたこれまでのムードから離れ、ゆったりとしたシルエットにドレーピングやブラウジング、タックインでシェイプを加えるヘルシーな色気、ウエストシェイプ、そしてV字のシルエットという明快な意匠を軸に、日常的なワードローブやヴィンテージ古着に品を宿らせる手法が展開されています。

会場となった西武渋谷店が2026年9月末に営業を終了するという事実、そして1970年代から80年代の東京のファッション文化を象徴してきたその場所が失われゆくことは、吉田自身のファッションへのまなざしと深く重なり合っています。モードが再び一部の特権的なものへと回帰しつつある現代において、ダナ・キャランが体現したモードを大衆化するという姿勢を自身のブランドの文脈で引き継ごうとする吉田圭佑の試みは、今後数年をかけて向き合うべき命題として、これからのケイスケヨシダの展開を占う重要な手がかりになります。

2015年の設立から10年という節目に、コレクションでの表現と、直営店という恒常的な場を同時に走らせながら、ふくよかさというテーマを次世代へと手渡そうとしている点も見逃せません。1回のコレクションで全てを完結させるのではなく、半年、数シーズン、そして10年という異なる時間軸を重ね合わせながら一つの命題に向き合い続ける吉田のスタンスは、目まぐるしく消費されがちな現代のファッションシーンにあって、稀有な姿勢だと言えます。エモーションと強固な女性像を手放してもなお残る服そのものが持つケイスケヨシダらしさを軸に、来季以降どのような時代や文脈が新たに参照され、ブランドの語彙が広がっていくのか。西武渋谷店という一つの時代の終わりを見届けた今回のコレクションを起点に、ケイスケヨシダがこれからどのようなふくよかさを提示していくのか、注目が集まります。

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