リカバリーウェアの価格帯は、ここ数年で1万円台から1000円台へと大きく下がりました。きっかけは、ワークマンやドン・キホーテ、ニトリといった大手小売各社の相次ぐ参入です。2026年秋冬シーズンには、ホームセンター大手のコメリもオリジナルブランド「ソルビック」でこの市場に加わりました。もともとリカバリーウェアは1万円から2万円台が中心の商品でしたから、1000円台という価格は市場構造そのものの変化を映しています。この記事では、コメリの新商品を起点に、価格競争がどのように進んできたのか、その背景にある制度や各社の戦略を整理します。

コメリが「ソルビック」で参入、価格は上下セットで1点1890円

コメリは、オリジナルアパレルブランド「ソルビック」からリカバリーウェアを発売しました。ラインアップは長袖シャツとロングパンツの2型で、価格はそれぞれ1980円です。上下セットで購入すると1点あたり1890円になる計算で、単品よりもセット買いのほうが割安になっています。いずれも一般医療機器としての届出を受けた商品で、遠赤外線による血行促進をうたう「家庭用遠赤外線血行促進用衣」に該当します。
コメリの担当者は、リカバリーウェア市場への参入が他社より遅れたことを認めたうえで、「他社商品に負けないよう、コメリならではのオリジナリティを追求し、ルームウェアとしての完成度に重点を置いた」と説明しています。長袖シャツは、腕を動かしやすい袖幅を採用し、寝返りを打っても背中が引っ張られにくいよう脇部分のパターンを工夫しました。着丈も長めに設定し、就寝中に背中が出にくい設計です。パンツは、寝返りのしやすさを考えて脇線の切り替えをなくしました。価格の安さだけでなく、部屋着としての快適性にも力を入れていることがうかがえます。
ソルビックは「シンプルかつ機能性を兼ね備えたカジュアルウェアブランド」という位置づけで、高機能性と低価格を基本方針としています。同じ2026年秋冬シーズンには、リカバリーウェアのほかにも防水トレッキングシューズ(3480〜3980円)やレザースニーカー(3480円)、断熱シートと中綿を組み合わせたシェルターパーカ(5980円)とパンツ(3980円)、ウォームシューズ(2580円)を展開しています。アウトドアブランド「ナチュラルシーズン」からは、アルミ蒸着シートを使った三層構造でケープやスカートにも使えるブランケット(2480〜2980円)も出ており、リカバリーウェアはこうした低価格・高機能路線の商品群のひとつという位置づけです。
低価格化の主役はワークマン、リカバリーウェアが前期比808%増
現在の低価格競争でもっとも目立つ動きを見せているのがワークマンです。2025年9月にリカバリーウェア「メディヒール」シリーズを発売し、テレビCMや販促チラシによるプロモーションを積極的に展開した結果、スポーツをする層に限らない一般層への浸透に成功しました。
2026年3月期の決算では、リカバリーウェア全体の売上高が前期比808.2%増という急成長を記録し、ワークマンの過去最高業績を後押ししました。全商品に占めるリカバリーウェアの構成比も5.6%に達し、一部門というより会社全体の業績を動かす主力カテゴリーに育っています。2026年に入ってからも勢いは続き、第1四半期(4〜6月期)だけで「メディヒール」は約504万着を売り、売上高は約71億円に達しました。累計では684万着を超え、事業規模は115億円まで拡大したとも報じられています。ワークマンは2026年通期でリカバリーウェア2100万着、売上350億円という計画を掲げており、9月には上位モデル「コスモス」の投入も予定しています。
価格面では、2026年4月から「990円」というインナータイプを投入し、低価格攻勢を本格化させました。他社のリカバリーウェアが1万円台半ばから3万円程度で展開されているのに対し、990円という価格は大きく踏み込んだ設定です。ワークマンの大内康二社長は好調の要因について、「リカバリーウェアは他社も多く取り組んでいるが、低価格高機能というワークマンのブランド力への信用度が高い」と分析しています。ワークウェアやアウトドアウェアの分野で培ってきた「低価格で高機能」というブランドイメージを、そのままリカバリーウェアという新しいカテゴリーに持ち込んで成功した例といえます。
ドン・キホーテはシェア5%を掲げて1099円から参入
ドン・キホーテもプライベートブランド「情熱価格」から機能性衣料としてリカバリーウェアを発売し、中長期的に国内シェア5%の獲得を目標に掲げています。価格は1099円から1429円という設定で、価格の高さがネックとなって購入をためらっていた層に向けた提案です。
戦略の軸になっているのが、ターゲット層の絞り込みです。「働き盛りで最も疲れている年代」と位置づける30代から40代の共働き世代を明確なターゲットに定めています。商品設計もパジャマ型ではなくインナータイプを採用し、就寝時だけでなく日中の勤務中にも着用できるようにしました。着用時間そのものを増やす狙いです。加えて、全国に広がる店舗網や若い顧客層からの支持といった、ドン・キホーテがもともと持つ強みを武器にシェア獲得を狙う方針を示しています。
ニトリの「Nミラク」は1490円、島忠・ホームズでも展開
ニトリは2026年2月にリカバリーウェア市場へ参入しました。「Nミラク」シリーズをニトリ店舗のほか島忠・ホームズ店舗、ニトリネットで発売し、長袖Tシャツ、半袖Tシャツ、ロングパンツ、ハーフパンツの4型をいずれも1490円(税込)、上下セットは2980円という価格で展開しています。
繊維に高純度セラミックスを定着させる加工を施し、遠赤外線を放射する仕組みは他社と共通していますが、抗菌防臭加工で細菌の増殖を抑えてニオイの発生を低減し、静電気防止加工で衣類のまとわりつきを軽減するなど、快適性を高める工夫も加えています。Nミラクも一般医療機器「家庭用遠赤外線血行促進用衣」として届出済みです。家具・インテリア量販店のニトリが、寝具事業で培った睡眠というテーマの延長線上でリカバリーウェアに参入した形といえます。
各社の価格を並べると

コメリを含めた主要各社の価格を整理すると、次のようになります。
| ブランド(運営企業) | 価格帯の目安 |
|---|---|
| ソルビック(コメリ) | 1980円、上下セットは1点1890円 |
| Nミラク(ニトリ) | 1490円、上下セットは2980円 |
| メディヒール(ワークマン) | 1900円前後、インナータイプは990円 |
| 情熱価格(ドン・キホーテ) | 1099〜1429円 |
いずれも一般医療機器としての届出を受けた長袖Tシャツやインナー型の商品で、1000円台という価格帯は、従来1万円超が当たり前だった市場から見ると大幅な低価格化です。
先行したBAKUNEとRELIVEは1万円から2万円台だった
低価格化が進む前のリカバリーウェア市場を引っ張ってきたのが、TENTIALの「BAKUNE」やりらいぶの「RELIVE」といったブランドです。BAKUNEはスポーツ選手とのコラボレーションやタレントを起用したプロモーションでブランド価値を高め、シルク素材を使った上位モデルも展開するなど、機能性と快適性を追求した高価格帯のラインアップを持っています。
技術面を見ると、BAKUNEは特殊繊維「SELFLAME」に極小のセラミック粉末を練り込み、着用者自身の体から出る遠赤外線を吸収して肌へ輻射する仕組みを採用しています。「BAKUNE Motion Design」と呼ぶ設計により、就寝時の体勢にフィットする広めの背幅で背中を包み込み、寝返りの動きをスムーズにする工夫も凝らしました。素材技術やデザインへのこうしたこだわりが、高価格帯でも支持を集めてきた理由のひとつです。
りらいぶの「リライブシャツα」は、生地のプリント加工部分に遠赤外線輻射機能を持たせた設計で、価格は11000円でした。日常生活だけでなく運動時や仕事、介護のシーンまで幅広く使える機能性Tシャツとして販売されていましたが、りらいぶは2024年2月から販売してきたリライブシャツαとリライブスパッツαについて、約48万着を自主回収すると発表しました。厚生労働省が定める一般医療機器「家庭用遠赤外線血行促進用衣」の定義が改訂され、生地の一部分だけが遠赤外線を輻射する「部分的輻射型」の製品はこの定義に当てはまらなくなり、医療機器としての届出を維持できなくなったためです。返送した商品には、1点につき15000円分の商品引換クーポン、または購入金額の全額返金のいずれかを選べる補償が用意されました。この一件は、リカバリーウェア市場が価格競争だけでなく、一般医療機器としての基準そのものが行政によって見直されている過程にあることを示しています。各社が低価格化を進める一方で、医療機器としての基準を満たし続けられるかどうかも、今後の競争を左右する要素になりそうです。
VENEXが切り開いた市場、価格は3万円台から始まった
リカバリーウェアというカテゴリーを遡ると、その先駆けとされるのが神奈川県厚木市に拠点を置く「VENEX」です。世界的なリカバリーウェアのパイオニアと位置づけられ、自社開発の「PHT繊維」を使った休養のための衣料として、医療機器の登録を受けたうえでパジャマ代わりの部屋着からアスリート向けの日常着まで展開してきました。価格帯はラインによって異なりますが、上質なスーツにも使われるスーパー140超の高級メリノウールを使う「プラチナメリノウール」ラインでは、クルーネックが30800円、パンツが33000円という設定もあります。素材にこだわった高価格帯の商品で、リカバリーウェアというカテゴリー自体を切り開いてきた歴史があります。
VENEXのような先駆者、そしてBAKUNEやRELIVEのような1万円台から2万円台のブランドが市場を育てたあと、ワークマンやドン・キホーテ、ニトリ、コメリといった大手小売各社が1000円台で相次いで参入してきたのが、いまのリカバリーウェア市場の構図です。数万円台から数千円台、さらに1000円台へと、価格帯が段階を追って下がりながら市場が広がってきました。
一般医療機器の届出が2022年に新設され、参入のハードルが下がった

参入が相次ぐ背景には、制度面の整備も関わっています。2022年、厚生労働省は薬機法に基づく品目として「家庭用遠赤外線血行促進用衣」を新たに追加しました。これにより、定められた科学的根拠を示したうえで届出を行えば、血行促進や疲労回復といった効能を表示して販売できるようになりました。この制度整備が、多くの企業がリカバリーウェア市場に本格参入する後押しになったと見られています。
この分類はクラス1の医療機器で、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)への届出を経て製造販売されます。届出には、医療機器製造販売業の許可を取得したうえで「家庭用遠赤外線血行促進用衣自主基準」の要件を満たす必要があり、製品の範囲や耐用期間、原材料、外観・形状、赤外線放射特性、血流量の変化といった複数の項目を確認したうえでPMDAに製造販売届出書を提出します。仕組みとしては、着用者自身の体温から出る遠赤外線を衣料に配合された鉱物などが吸収・伝導し、再び遠赤外線として体内に輻射することで、細胞組織との共鳴により熱エネルギーが生まれ血行を促すとされています。「一般医療機器」という位置づけは、単なる機能性表示のアパレルとは一線を画す訴求材料であり、各社が価格を下げても医療機器としての届出を経た製品であることは維持したまま競争している点が特徴です。
あわせて、テレワークの普及や生活スタイルの変化、健康への関心の高まりも需要拡大の要因になっています。関連企業の販売枚数は近年右肩上がりで伸びており、需要の伸びに応じて新規参入企業も増えている状況です。
消費者の9割が「1万円未満」を希望している
複数の消費者調査からも、低価格化が進む必然性を裏づけるデータが出ています。ある調査では、リカバリーウェアの認知率は85.4%に達し、睡眠の質向上や疲労回復のためのアイテムとして幅広い年代に知られています。一方で、未購入者の約8割が「興味がある」と答えているにもかかわらず、実際の購入には至っていない実態も明らかになりました。購入を阻む要因としては、価格・効果への不安・情報不足の3つが挙げられており、価格の高さがいまも大きな壁になっていることがわかります。
価格に関する具体的な数字を見ると、実際の購入者の50.5%が1万円未満の商品を選んでおり、次いで1万円台から2万円台が44.0%です。未購入者に限ると、約9割が「1万円未満」の価格を希望しています。特別な贅沢品としてではなく、日常的に使えるアイテムとして求められていることがわかります。購入理由としては「睡眠の質向上」と「疲労回復」がいずれも31.9%で最多となっており、日々の生活を整えるための実用品として位置づけられていることがうかがえます。
こうした調査結果は、ワークマンやドン・キホーテ、ニトリ、コメリといった大手小売各社が1000円台で相次いで参入している動きと符合します。消費者側にもともと「1万円未満で日常使いできるものが欲しい」という明確なニーズがあり、そのニーズに応える形で各社が低価格帯の商品を投入していると見ることができます。
低価格化を支えるのは各社の既存のPB戦略
コメリがリカバリーウェアで低価格路線を取れる背景には、同社が長年培ってきたプライベートブランド戦略があります。コメリはDIY用品や園芸用品を核商品に、全国46都道府県で1217店舗を展開するホームセンター事業者で、独自のシステムとノウハウによって必要な商品をお求めやすい価格で安定的に提供することを経営目標に掲げています。
自社開発のPB商品はこれまでに5万種類にのぼり、売上に占める割合は全体の47.1%です。「安くていいモノ」を提供するためにPB商品の開発に注力し、販売数量でNo.1を獲得している商品も複数持っています。低価格・高品質のPB戦略はコメリの中核的な事業モデルであり、今回のソルビックによるリカバリーウェア参入も、この延長線上にあります。後発でありながら価格面で他社と渡り合える土台を、もともと持っている経営資源やノウハウが支えている構図です。
ワークマンについても同じことがいえます。ワークウェアやアウトドアウェア事業で培ってきた「低価格で高機能」という信頼を、そのままリカバリーウェアという新カテゴリーに持ち込んで成功しました。既存事業で培った価格戦略やブランドの考え方を新カテゴリーに応用する動きは、各社に共通しています。
テレビCMとSNSがアスリート向けから日常品へ変えた
価格競争と並行して、リカバリーウェアの位置づけそのものにも変化が生じています。かつてアスリート向けの専門ギアという性格が強かった機能性衣料は、いまでは日常的なウェルネスツールへと広がりつつあります。2024年以降、人気アイドルなどを起用したテレビCMをはじめとするプロモーションが各社で展開されるようになり、スポーツをする層に限られていた認知が一般消費者層にも広がる後押しになりました。
例えば、プロフィギュアスケーターの宇野昌磨をCMアンバサダーに起用するブランドがあるなど、スポーツ選手や俳優を起用する動きが各社で見られます。ワークマンがテレビCMや販促チラシによるプロモーションで一般層への浸透に成功し、売上を大きく伸ばしたのは前述の通りです。認知経路としてはテレビCMが中心ですが、20代・30代の若年層ではSNSの影響も大きく、着用による効果を実感したという声も多いようです。CMの中身も、機能や性能を直接アピールするのではなく、利用者の気持ちや日常生活に寄り添った内容に重点を置くブランドがあります。プロモーション面での競争は、価格競争と並ぶもうひとつの軸になっており、低価格化で購入のハードルを下げつつ、CMやSNSでカテゴリーそのものの認知と需要を底上げする動きが業界全体で進んでいます。
低価格でも各社は着心地の差別化に力を入れている
低価格化が進む一方で、各社は価格だけでなく着心地や機能面での差別化にも力を入れています。コメリのソルビックの例では、後発であることを踏まえて、ルームウェアとしての完成度を高める工夫が随所に見られます。腕を動かしやすい袖幅の設計や、寝返りを打っても背中が引っ張られにくい脇部分のパターン、着丈を長くして背中が出にくくする設計など、就寝時の快適性を重視した作りです。パンツも寝返りのしやすさを考え、脇線の切り替えをなくすなど、体を動かしたときのストレスを減らす工夫が凝らされています。
こうした細部の作り込みは、価格が安いというだけでなく、価格を抑えつつ快適に着られるという付加価値を訴える狙いがあるのでしょう。低価格競争が激しくなるほど価格だけでの差別化には限界が出てくるため、着心地やデザイン、部屋着としての完成度で差をつけようとする動きは、コメリに限らず各社に共通しています。
リカバリーウェア市場は2030年に1700億円規模へ拡大する見通し
業界レポートによれば、リカバリーウェア市場は今後も拡大が見込まれています。調査会社の分析では、2030年に市場規模が1700億円規模に達するという予測が示されています。予測機関によって数値には幅がありますが、市場が拡大していくという方向性は共通しています。
こうした成長市場としての将来性の大きさが、ホームセンターのコメリ、家具・インテリア量販店のニトリ、作業服・アウトドア用品店のワークマン、ディスカウントストアのドン・キホーテといった、本来はアパレル専業ではない幅広い業種の企業を次々と参入させる原動力になっていると考えられます。
まとめ
リカバリーウェア市場は、VENEXが切り開き、BAKUNEやRELIVEが1万円台から2万円台で育てた市場に、ニトリ、ワークマン、ドン・キホーテ、そしてコメリといった大手小売・量販店が相次いで参入し、1000円台という価格帯で競争を繰り広げている状況です。背景には、市場自体の急成長、先行ブランドによる認知拡大、価格がネックだった潜在顧客層の存在、各社が持つ既存の低価格・高機能ブランド戦略の応用、そして一般医療機器の届出という制度的な品質担保の存在など、複数の要因が重なっています。
ワークマンのように前期比808%増という急成長を遂げる企業がある一方、ドン・キホーテのように明確なシェア目標を掲げて参入する企業、コメリのように後発を認めながらも独自の完成度を追求する企業まで、各社のアプローチにはそれぞれ特色があります。市場の拡大が見込まれるなか、価格競争と機能・品質面での差別化競争は、これからも並行して進んでいくと見られます。








