サステナブルファッションにおけるH&MとSHEINの評価比較では、H&Mが環境対策や情報開示において優位に立っている一方、SHEINは低価格を実現する裏側で深刻な環境負荷と労働問題を抱えています。H&Mは2030年までに温室効果ガス排出量を56%削減する目標を掲げ、再生可能エネルギー導入率96%を達成するなど着実な成果を上げています。対するSHEINは航空輸送への過度な依存により排出量が急増しており、サプライチェーンの透明性も極めて低い状況です。
ファッション産業は世界の温室効果ガス排出量の約2%から8%を占めるとされ、航空業界と海運業界を合わせた排出量を上回る規模となっています。繊維の生産から染色、仕上げ加工に至るプロセスで大量の水資源を消費し、化学物質による水質汚染を引き起こしています。さらに、洗濯によって流出するマイクロプラスチックは海洋生態系を破壊し、人体への影響も懸念されています。このような背景から、原材料の調達から廃棄に至るまでのライフサイクル全体で環境負荷を抑え、労働者の人権にも配慮した「サステナブルファッション」の重要性が高まっています。本記事では、ファストファッション業界を代表するH&MとSHEINの環境対策、労働環境、透明性を徹底比較し、消費者として知っておくべき両社の実態を詳しく解説します。

H&MとSHEINとは何か:対照的な二つのファストファッション企業
サステナブルファッションを考える上で、H&MとSHEINは対照的なアプローチを取る二つの巨大企業です。H&Mとは、1947年にスウェーデンで創業した世界的なファストファッション企業で、実店舗を中心に展開してきた「伝統的ファストファッション」の代表格です。長年にわたり環境・社会問題への批判を受けてきた経験から、業界内でもいち早くサステナビリティへの取り組みを開始しました。2000年代からCSR(企業の社会的責任)レポートを発行し、サステナブル素材の使用率向上やサプライチェーンの透明化に向けた具体的な目標を掲げています。
一方、SHEINとは、2008年に中国で創業したオンライン専業のファッション企業で、「ウルトラファストファッション」と呼ばれる新しいビジネスモデルを確立しました。実店舗を持たず、AI(人工知能)を駆使してSNS上のトレンドを瞬時に分析し、数千もの新作を毎日リリースする「リアルタイム・リテール」モデルが特徴です。デジタルネイティブなZ世代を中心に爆発的な成長を遂げましたが、その急成長の裏側には環境負荷や労働問題といった深刻なリスクが潜んでいます。
H&Mの環境対策:脱炭素化への取り組みと成果
H&Mの環境対策は、科学的根拠に基づいた目標(SBTi)に準拠しており、業界内でも比較的野心的な部類に入ります。2024年に公開されたサステナビリティレポートによると、同社は2030年までに2019年比で温室効果ガス排出量を56%削減する目標を掲げています。
温室効果ガス削減の実績
H&Mは自社運営(スコープ1)および購入電力(スコープ2)における排出量について、2019年比で41%の削減を達成しました。この成果は、店舗やオフィスにおける再生可能エネルギー導入率を96%まで高めたことによるものです。ファッション企業の排出量の大半を占めるサプライチェーン全体を含む「スコープ3」においても、2019年比で24%の削減を報告しています。
グリーンボンドによる環境投資
H&Mは脱炭素化を推進するために「グリーンボンド(環境債)」を活用しています。2023年と2024年に発行されたグリーンボンドにより調達された資金は、再生可能エネルギープロジェクトや循環型経済への移行支援に充てられています。具体的には、サプライヤー工場における石炭ボイラーの撤廃と電化、太陽光パネルの設置、水処理システムの改善などに投資が行われました。2024年の報告では、サプライヤー工場における石炭ボイラーの使用数が、2022年の118基から27基へと大幅に減少したことが確認されています。これは、ブランドがサプライヤーに対して単に排出削減を要求するだけでなく、資金面での具体的な支援を行っている好例として評価されています。
課題と批判的視点
一方で、H&Mの環境対策には課題も残されています。一部のアナリストは、排出量削減の数値の一部が計算方法の変更によるものである可能性を指摘しています。また、絶対的な生産量が増加している中で、購入した商品やサービスに由来する排出量が9%増加しているというデータもあり、「成長と環境負荷のデカップリング(切り離し)」が完全には実現できていない現状も浮き彫りになっています。
H&Mの循環型経済への取り組み:リサイクルとサステナブル素材
H&Mは循環型経済(サーキュラーエコノミー)の実現に向けて、素材の革新と廃棄物削減に取り組んでいます。2030年までにリサイクル素材またはサステナブルに調達された素材を100%使用するという目標を掲げており、2024年時点でその比率は89%に達しました。そのうちリサイクル素材の比率は29.5%となっており、2025年の目標であった30%に迫る数値で着実な進捗が見られます。
古着回収とLooper Textile Co.の設立
循環型ビジネスモデルの構築に向けた重要な取り組みとして、廃棄物管理の世界的企業であるREMONDISとの合弁会社「Looper Textile Co.」の設立が挙げられます。この新会社は、欧州を中心に古着の回収と選別能力を強化し、廃棄される衣類を再び資源として循環させることを目的としています。2024年のデータでは、回収された衣類の65%がリユース(古着として再販)され、23%がリサイクル(ウエスや断熱材などへ)されています。
繊維リサイクルの技術的課題
しかし、H&Mの循環型経済への取り組みには大きな課題が残っています。それは「繊維から繊維へのリサイクル(Textile-to-Textile Recycling)」の比率がわずか2%にとどまっているという事実です。現在の技術では、混紡素材(綿とポリエステルの混合など)を分離して高品質な繊維に再生することはコスト的にも技術的にも困難です。H&Mはこの課題を克服するために、革新的なリサイクル技術を持つスタートアップ企業(SyreやCirculoseなど)への投資を加速させていますが、商業規模での完全な循環を実現するにはまだ長い時間を要すると考えられています。
SHEINの環境問題:オンデマンドモデルの光と影
SHEINのビジネスモデルの核心は、AIを活用した需要予測と超高速サプライチェーンによる「オンデマンド生産」です。毎日数千もの新商品をわずか100〜200着という極小ロットで生産し、売れ行きが好調なものだけを追加生産するこの仕組みは、理論上は過剰在庫と廃棄ロスを劇的に削減できるとされています。SHEIN側もこのモデルによって廃棄物の少ないファッションを実現していると主張しています。
航空輸送依存による環境負荷
SHEINのオンデマンドモデルは環境面で致命的な欠陥を抱えています。「スピード」を維持するために、製品の輸送において航空貨物に極端に依存している点です。通常のファストファッション企業(H&MやZARAなど)は主に船便を利用して数週間かけて製品を輸送しますが、SHEINは中国の倉庫から世界中の顧客へ個別に空輸しています。航空輸送は海上輸送に比べて、単位あたりの温室効果ガス排出量が数十倍も高くなります。
SHEINの2024年サステナビリティレポートによれば、同社の絶対的な温室効果ガス排出量は前年比で大幅に増加しており、特に輸送・配送に伴う排出量は13.7%増加し、約850万トンCO2eに達しました。サプライチェーン全体(スコープ3)の排出量に至っては、わずか2年で170%以上も増加したという報告もあり、「成長すればするほど地球を汚染する」という構造的矛盾が露呈しています。
労働環境の比較:H&MとSHEINの決定的な違い
サステナブルファッションを評価する上で、労働環境は極めて重要な指標です。H&MとSHEINでは、この点において大きな差があります。
H&Mの労働環境への取り組み
H&Mは2013年に「公正な生活賃金戦略」を発表し、サプライヤー工場の労働者に対して生活賃金が支払われるよう取り組んできました。H&MはACT(Action, Collaboration, Transformation)の創設メンバーとして、業界レベルでの集団的労使交渉を推進しており、工場内での民主的な労働者代表選出システムの導入を進めています。
ただし、Clean Clothes Campaignなどの労働権益団体からは批判も受けています。彼らの調査によれば、バングラデシュやカンボジアなどの主要生産国において、多くの労働者が依然として貧困ライン以下の賃金で働いているのが実態だとされています。H&M側はブランドが直接賃金を支払うのではなく、サプライヤーとの取引価格や労働組合の交渉力を強化することで間接的に賃金上昇を促すアプローチをとっていると説明しています。
SHEINの労働環境問題
SHEINのサプライチェーンにおける労働環境は、国際的な人権団体やメディアによる調査で度々問題視されてきました。スイスのNGO「Public Eye」による2021年の潜入調査および2024年の追跡調査では、SHEINのサプライヤー工場において深刻な労働実態が明らかになりました。
調査報告によると、労働者たちは朝8時から夜10時半過ぎまで1日12時間以上ミシンの前に座り続け、週の労働時間は75時間に達することもありました。休日は月にわずか1日しかなく、これは中国の労働法にも明確に違反しています。さらに、多くの工場では正式な労働契約が結ばれておらず、社会保障も提供されていません。安全面でも、非常口がふさがれていたり窓に鉄格子がはめられていたりと、火災発生時に甚大な被害が出るリスクが指摘されています。
SHEIN側はこれらの指摘に対し、サプライヤー行動規範を定めており違反が見つかった場合は契約解除などの措置を講じていると反論しています。しかし、Public Eyeの再調査では、数年経過しても実質的な改善が見られなかったと結論付けられています。
新疆綿と強制労働リスク:SHEINが抱える深刻な懸念
SHEINが抱えるもう一つの重大な懸念は、原材料である綿花の調達先です。中国の新疆ウイグル自治区では、少数民族に対する強制労働が国際的に問題視されており、米国では「ウイグル強制労働防止法(UFLPA)」によって同地域からの製品輸入が原則禁止されています。
SHEINはサプライチェーンが極めて細分化され不透明であるため、原材料のトレーサビリティ(追跡可能性)を確保することが困難です。一部の調査では、SHEINの製品から新疆綿の痕跡が見つかったとの報告もあります。英国議会での公聴会において、SHEINの代表者は新疆綿の使用有無について明確な回答を避け、アイソトープ検査の結果、一部の綿花が「未承認の地域」由来であることを認めざるを得ませんでした。この問題は、SHEINが目指すロンドン証券取引所や米国での上場にとって最大の障壁となっており、投資家からも強い懸念が示されています。
製品の安全性:SHEINから検出された有害化学物質
安価な製品の裏には、品質と安全性の問題が潜んでいます。韓国ソウル市当局やグリーンピースなどの調査により、SHEINで販売されている子供服やアクセサリー、靴などから、基準値を大幅に超える有害化学物質が検出された事例が相次いで報告されています。
具体的には、幼児用ジャケットからカナダの安全基準の20倍近い鉛が検出されたケースや、靴から高濃度のフタル酸エステル(生殖毒性がある物質)が検出されたケースなどがあります。さらに、2025年初頭には感電の危険性があるとしてヘアードライヤーブラシのリコールも実施されました。これらは、SHEINのサプライチェーン管理、特に品質管理プロセスが急激な生産拡大に追いついていないことを示唆しています。
グリーンウォッシングの問題:両社が直面する消費者への誠実さ
サステナブルファッションにおいて、企業の主張と実態が乖離する「グリーンウォッシング」は深刻な問題となっています。H&MとSHEINは共にこの問題で批判を受けてきました。
H&Mのグリーンウォッシング訴訟
H&Mの「Conscious Choice(コンシャス・チョイス)」コレクションは、サステナブルな素材を使用していることをアピールするマーケティングキャンペーンですが、これが消費者に誤解を与えるグリーンウォッシングであるとして、米国や欧州で複数の訴訟や規制当局の調査対象となりました。「サステナブル」という言葉の定義が曖昧である点や、リサイクルポリエステルの使用が必ずしも繊維廃棄物の削減につながらない点などが問題視されました。これを受けてH&Mは一部のスコアカードを取り下げるなどの対応を迫られ、ブランドイメージへの影響を受けています。
SHEINに対するイタリア当局の処罰
SHEINは「evoluSHEIN」などのサステナブルコレクションを展開し環境配慮をアピールしていますが、これらが実態を伴わないとして規制当局から処罰を受けています。2024年、イタリアの競争当局は、SHEINがウェブサイト上で使用した「グリーン」「エコフレンドリー」といった表現が曖昧であり消費者に誤解を与えるとして、同社に100万ユーロ(約1.6億円)以上の罰金を科しました。当局は、SHEINが掲げる「2030年までに排出量を25%削減する」という目標についても、実際の排出量が増加し続けている現状と矛盾しており誤解を招く表示であると断じました。
透明性の比較:情報開示における両社の差
透明性において、H&MとSHEINの差は歴然としています。
H&Mは、ファッション・レボリューションが発行する「ファッション透明性インデックス」において、常に上位(70%以上のスコア)にランクインしています。一次サプライヤーだけでなく、二次サプライヤー(紡績工場など)のリストも公開し、サステナビリティデータの詳細な開示を行っています。
一方、SHEINの透明性スコアは極めて低く、Good On Youなどの評価機関からも最低ランクの評価を受けています。サプライチェーンの全容はブラックボックス化しており、どこの工場で、誰が、どのような環境で作っているのかを外部から検証することはほぼ不可能な状況です。
H&MとSHEINの包括的比較表
両社のサステナビリティパフォーマンスを主要な指標で比較すると、以下のような違いが明らかになります。
| 評価項目 | H&M | SHEIN |
|---|---|---|
| 温室効果ガス削減 | 2019年比で24〜41%削減達成 | 排出量が170%以上増加 |
| 再生可能エネルギー | 導入率96% | 限定的な取り組み |
| サステナブル素材比率 | 89%(2024年) | 不明確 |
| 透明性スコア | 70%以上(業界上位) | 最低ランク評価 |
| 労働環境 | 改善への取り組み継続中 | 深刻な問題が指摘 |
| 循環型経済 | 回収・リサイクルシステム構築中 | リセールプラットフォームのみ |
規制強化がもたらす今後の影響
サステナブルファッション業界を取り巻く規制環境は急速に厳格化しています。特にH&MとSHEINのビジネスモデルに大きな影響を与える規制変化が進んでいます。
デミニミスルールの見直し
SHEINにとって最大の脅威となっているのが、米国やEUで進む「デミニミス(少額免税)」ルールの見直しです。デミニミスとは、一定額以下の個人輸入貨物に対して関税や税関検査を免除する制度です。SHEINはこの制度を最大限に利用し、中国から世界中の顧客へ直接商品を発送することで関税コストを回避し、圧倒的な低価格とスピードを実現してきました。
2025年に入り、米国やEU委員会はこの制度が不公平な競争を生み出し、安全基準を満たさない製品の流入を許しているとして、制度の撤廃や厳格化に動き出しています。もしこの免税措置が撤廃されれば、SHEINの商品には即座に関税が課され、価格競争力が大きく削がれます。さらに、全品に対する税関申告が必要となれば物流が停滞し、「注文から数日で届く」という利便性も失われます。H&Mは従来通りコンテナ単位で輸入し正規の手続きを経て販売しているため、この規制変更はむしろ公平な競争条件を取り戻す機会となります。
デジタルプロダクトパスポートの導入
EUが導入を進める「デジタルプロダクトパスポート(DPP)」も、両社に異なる影響を与えます。DPPとは、製品のライフサイクル情報をデジタル化し、消費者がQRコードなどで簡単にアクセスできるようにする仕組みです。製品の素材、原産地、リサイクル可能性、環境フットプリントなどの開示が義務付けられます。
サプライチェーンが管理されているH&Mにとって、DPPへの対応はコストがかかるものの技術的には可能です。しかし、無数の小規模工場と流動的な契約を結んでいるSHEINにとって、全製品の正確なトレーサビリティデータを担保することは至難の業です。データが不足していればEU市場で販売できなくなる可能性もあり、SHEINのビジネスモデルにとって致命的な打撃となる可能性があります。
消費者の意識変化:デインフルエンシングの台頭
市場環境においても変化の兆しが見られます。TikTokなどのSNSでは、過剰消費を煽るインフルエンサー文化への反動として「デインフルエンシング」というトレンドが生まれています。これは「この商品は買わないで」「品質が悪い」といった正直なレビューを発信し、無駄な消費を抑制しようとする動きです。
経済的なインフレや生活費の高騰も相まって、Z世代の消費者は「安ければいい」という価値観から「長く使えるもの」「本当に価値のあるもの」を選ぶ傾向にシフトしつつあります。SHEINの商品に対する厳しいレビューが拡散されることは、ブランドへの信頼を損ない、相対的に品質とサステナビリティへの信頼性が高いブランドへの回帰を促す可能性があります。
サステナブルファッションの未来:消費者として知っておくべきこと
サステナブルファッションにおけるH&MとSHEINの評価比較から導き出される結論は明確です。H&Mは課題を抱えつつも環境・社会問題の解決に向けて具体的な取り組みを進めていますが、SHEINは現状では多くの問題を抱えたままとなっています。
H&Mは既存のビジネスモデルの限界を認識し、巨額の投資を行って脱炭素化と循環型社会への適応を進めています。その道のりは平坦ではありませんが、方向性は世界の規制トレンドと合致しています。一方、SHEINはテクノロジーを駆使して効率化を極めましたが、その効率化は環境と人権という外部コストを無視することで成り立っていた側面があります。迫りくる規制の波と消費者の意識変化は、SHEINに対してビジネスモデルの根本的な見直しを迫っています。
消費者としては、単に「どちらもファストファッション」と片付けるのではなく、その背後にある企業の姿勢と透明性を理解することが重要です。買い物は一種の投票であり、どの企業を支持するかは消費者自身の価値観に基づく選択となります。SHEINの安さの裏には、過酷な労働環境と環境負荷という「隠されたコスト」が存在することを認識した上で、自分なりの判断を下すことが求められています。
サステナブルファッションを実現するためには、企業の取り組みだけでなく、消費者一人ひとりが衣服の購入・使用・廃棄について意識を高めることが不可欠です。流行に流されず本当に必要なものを選び、購入した服を長く大切に使い、不要になった際には適切にリサイクルや寄付に出す。このような行動の積み重ねが、ファッション産業全体のサステナビリティ向上につながっていくのです。









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